東京ゲームショーにて触れてきた本物のアーケードスタイルコントローラー……。それはすでにアーケードの複製品、という概念を飛び越えて作成された、家庭用コントローラーの一つの解答であった。このまま真・ポップンコントローラーを『ex』として完成させても、それはただ心臓部の基盤をPSのものに置き換え、外装を作り直しただけのものに止まってしまう。ハンドメイドのカスタム品なのだから、やはり『量産型』とは違うところが欲しい。ただ一つの、オリジナルな部分が欲しい! せめて……こちらも同レベルか、それ以上の防音、防震対策をとりたい。 そうでなければ……なんだか自分の、この世でただ一つのコントローラーが意味のないものになってしまいそうで恐ろしかった。
そんな思いをかかえながら、とりあえず出来るところから改造を進めた。心臓部である「DCコントローラーの基盤」の代わりに、PSコントローラーの基盤を内蔵するのだ(幸いつてをたどって安く入手できた)。
勝手知ったる家庭用ポプコン。内部の構造はDC版とほとんど変わらないので、前にやった手順で基盤上のカーボンを削り落とし、半田付けを可能にする。前回の反省を生かして、基盤にはピンバイスドリルで穴を開け、そこにリード線を通してから半田付けを行った。これでかなり引っ張りの力に強くなる。
半田が暖まっているうちに、基盤→リード線→マイクロスイッチまでの半田付けを一気に行ってしまいました。
さて。つぎはいよいよ、ボタンの静音加工の番です。以前はボタンの値段が脳内で一つの壁を形成し、ボタンを分解するところまで踏み出せませんでした。ですがもうそんなことは言っていられません。とにかく「音が出ている最大の原因」を何とかしなければ、真・ポプコンはもう前進が無いのです。
まずはボタンの観察からです。これはボタンを押して、ボタンの下部に取り付けられたマイクロスイッチ(カチッ、カチッと音が鳴る機械式のスイッチ。何千、何万と押される用途に向いている)が作動するさまを写したものです。
マイクロスイッチを動作させているこの「白い突起」が、ボタンを抜けないようにしているパーツであることはもう明白です。では、実際に外すにはこのパーツを内側に押し込みながらボタンを引き抜けばいいのですが……前はそこまで踏み出せませんでした。下手をしてこのパーツを折ってしまったら、ボタンの生命線が断たれるのですから……。
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されど今回の目的はボタンの静音改造をする方法を模索することにあります。ひと思いにボタンを押したままの状態で、飛び出た「白い爪」を内側に押し込み、そのまま中へと押し込みました。折れてくれるな……!
一旦、右画像の状態で止まりました。内部にまだ段差があり、そこで引っかかっている模様。画像では見えにくいのですが、白い爪には丸い出っ張りが存在するので、そこに自分の爪を引っかけると、内部の段差はクリアできました。
そうか、ここまで曲がるものなのか。安堵感。意外に弾性のあるプラスチックのようだ。
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そして、ついに分解成功!
内部構造はほぼこちらで予想したとおり。ボタンのAパーツ(ガンダム風味)に、受け皿であるBパーツ。内部にはスプリング。右下のプラスチックボルトは、パネルに取り付けるために使うものです。
ただ、驚いたことにスプリングが二つ入っていたのです。二つのスプリングは、かなりの密度で押し込められていました。
そうか、これも騒音の一因か。一人で納得する。
スプリングが二つある……それは、押す力がより必要になるということです。結果、余計な力がかかり必要以上に音が出る、と。今までソフトタッチで押すと反応が鈍かったり、ボタンがアーケードのものと比べてなんだか重かったのも、ボタンが使い込まれていないからではなく、単純にスプリングが二つ入っていたからでした。
後日、アーケードのポップン筐体に使用されているスプリングを調べてもらう機会に恵まれました。それによると、ポップン筐体に入っているスプリングは一つ、スプリングの強度やピッチもほぼこれと同じ様子。安心して、スプリングを一つ抜き取り借り組みしてみる。すると、ボタンのタッチがアニメロ筐体並に軽くなりました。
いける。あとは静音工作だけだ。
さて、静音工作ですが……ポイントはもう解っています。ボタンのAパーツとBパーツが叩き合わさるときに音が出るのですから、その間に緩衝材を挟み込めば良いのです。何かを挟み込めば挟み込んだだけ、ボタンの沈み込みが浅くなる……つまり、マイクロスイッチが押されにくくなる、ということです。
ボタンの反応が鈍くなっては本末転倒です。まずは、どこまでボタンとスイッチにストロークがあるかを調べてみました。ボタンのパーツの間に輪ゴムを挟み込み、一度ボタンを組み上げてみる。
カチリ。まだ反応します。ですが、さすがに輪ゴムの厚み……1mm以上の「異物」を挟み込むことは無理のようです。ボタンを押す感覚もこれ以上変えたくはありません。厚さ1mm以下で、静音効果があり、メンテナンスの必要がほとんどなく、プラスチックに科学的な影響を与えないもの……。
輪ゴム……ゴム板ならば厚みはクリアー出来るが、思ったほど静音効果はない。ものによってはプラスチックを溶かす可能性があるかもしれない。では、フェルトなどはどうか。これならばプラスチックに影響はない。永続的にボタンの中に入れておける。だが厚さはどうか。そもそも、厚さ1mmのフェルトはあるのか。それはもう「布」ではないのか。フェルトから出たケバが、ボタンにどのような影響をもたらすのかも心配だ。定期的にボタンを分解し、掃除が必要だなんてとんでもない。スポンジも良いが、厚みに決定的な問題がある……。あるいは、ボタンの受け皿をなんらかの方法で深く「掘り下げて」緩衝材を入れるスペースを設けるとか……しかしそうするとボタンの強度に問題が……。
しばらく思考の日々が続きました。
2001年、十一月。ゲームショーからすでに一ヶ月が経過していました。
その頃私は引っ越しの真っ最中で、一時ポプコンの改造のことを忘れていたのでした。その時、引越祝いにいただいたコーヒーカップセットに目が行きました。おしゃれな、ひとそろいのカップたち。なかなか良いものをいただいた。満足げにカップを取り出したとき、再び脳内のニューロンがポップンと結びつき、電撃的なひらめきが脳を貫いたのです。
「こ、このカップを包んでいる白い発泡シート……! 科学的に安定し、加工が容易。まさに衝撃を吸収するために生まれた素材で、厚みも1mmたらずッ……」
発泡シートを握りしめる。
「こ、これだぁ!」
週末から再びポプコン静音工作への情熱に火が点いた!
厚紙で型紙(直径約70mm)を作り、発泡シートにマジックで型を書く。そうしたら両面テープを隙間なく貼り、後ははさみで切り取る。両面テープを全面に貼り付けるのは、端がめくれてボタン内部で暴れないようにするためです。
完成した「シール」は、ボタンの受け皿の方ではなく、Aパーツの方に貼りました。受け皿に存在する空気穴をふさぎたくなかったのです。
そうして出来たのが右の画像のもの。白い色なのでちょっと見えにくいかもしれません。一度この状態でボタンを組み上げて、叩いてみました。
モフッ。
アーケードのものでもなく、アケスタポプコンのものでもない感触。音は……かなり小さくなっている!
「……これだ。ついに、ついに第三の解答を導き出したぞ!」
しかし。方向は導き出したものの、また道は遠いということを思い知らされます。比較的強めに叩かないと反応しにくい、という問題です。ソフトタッチを心がけると、無反応になってしまう。だからといって強く叩いては静音工作をした意味が無い……。そのうち、明らかに効きの悪いボタンがはっきりと出てくる始末。
どうやら、発泡シートの厚さがギリギリ過ぎたのが原因のようです。厚みも、必ずしも均一ではありません。それが「効きの悪いボタン」として現れた、と。
今日のこの日は、友人のポッパーさんと秘密裏に真・ポプコンexの稼動実験をしていたのですが、これは次回の課題に持ち越されました。効きの悪いところは、取り急ぎ短冊状に切った発泡シートを貼り直しました。
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ですが、これは問題の解決になってはいません。ソフトタッチでもキチンと反応し、なおかつ音を緩和しなければ意味がないのです。
ひと思いに、九つのボタンを三度分解し、全ての発泡シートを剥がしとってしまいました。そこで試してみたのが、左の画像の方法。両面テープを貼った発泡シートをパンチングで打ち抜き、そうして出来たチップを貼り付けてみました。
緩衝材の面積が小さくなったので、以前の「モフッ」とした感触はあまり感じられなくなりましたが、一つ一つのチップが容易につぶれるのでボタンの無反応は無くなりました。
これで、ひとつ試してみるか。
その時、時を待たずしてオフ会の開催予定があったのです。
この、プロト3のボタンを使用した真・ポップンコントローラーex(外装は未完成)をオフに参加したみんなに試してもらおう。
そう、改造したボタンであることを何も言わずに。
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で、結果。
exの評判はまずまずでした。ボタンはアーケードのものと同じでも、静音加工が成されたものであることを見抜いた人も居ません。
しかし、それは劇的な静音効果が無かった、ということの証明でもありました。
後日、気になりボタンを開けてみたところ、八つのチップ全てが真っ平らに潰れていました! あれだけ押されれば無理もない……スイッチに干渉しない代わりに、静音の効果もまた弱かったのです。
では、どうするか。
もうここまで来たらこれまでに試した「良いところ」を全てリミックスするしかない。
緩衝材は発泡シート。
両面テープの厚さも計算に入れ、薄いタイプの発泡シートを選択。
薄くなって消音効果が弱くなった分は、ボタン全面に貼ることで効果を強めてみる。
全面に貼ることで、緩衝材の「潰れ」を出来る限り押さえる……。
そして後日、運良く「薄いタイプの発泡シート」を発見(以前のものの八割ほどの厚さ。なにかの梱包材のようだ)。それを用いて四度、九つのボタンを分解し、古い緩衝材を剥がし取った。
……本当に、ボタンを分解する手際が良くなったと自分でも思う。
すべてのボタンの加工を終え、いざテストプレイ。
ソフトタッチでも全てのボタンは問題なく動作。余計なスプリングを抜いたことにより、必要以上に力を入れる必要はない。ボタンにかけられた衝撃は、発泡シートで分散されている様子。
もともと私は指先でボタンを押す派の人なので、音はかなり小さくなった。ここでやっと、一息。
四回に及ぶ分解、加工の決着が、ようやくついた。「個人で使用するコントローラー」として、これで一応の及第点だろう。
それで、それでいいかい、兄さん……(仮想兄)。
アーケードと同じものを作ることはない。
アケスタポプコンを越える必要もない。
ただ、家庭で使うコントローラーとして、新たな解答を出せたことが満足だった。
一つの山は乗り越えたが「ex」の名を冠するためには、まだ越えねばならぬ問題があった!
次回、「完成にこぎ着ける男」。
乞うご期待!
<第四幕へ>
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